シュタイナー教育の視点から

「お手本としての人間ならではの営み」シュタイナー教育の視点から No17

お手本としての人間ならではの営み

新生児は、二本足で直立して歩くことも、手と腕を使って行為することも、言葉を話すことも、考えることもできません。とても未分化、未発達の状態で生まれてきます。胎内では1人で生きていけるような状態にまでは成長しないので、生まれてから人間になっていく必要があります。胎外妊娠期間が必要なのが人間です。

 ではどうやって人間になっていくのでしょうか。乳幼児が人間になっていくために彼らは無意識に周りにいる人間のしていることを真似します。この無意識に真似をする能力を乳幼児は生まれながらに持っていて、周りの人間の営みを真似すること、模倣することによって人間になっていくのです。その子どもがどんな人間になっていくかは、どのようなお手本を真似するかが、大きく影響しているのです。

 シュタイナー幼児教育の基本の基は「模倣と手本」。私たちが子どもの前でどのようなことをしているかを、子どもはそのままを真似して行為します。自然に無意識に真似してしまうのですが、実は子どもの自主的な自発的な活動なのです。そして目に見える行為だけでなく、私たちの内面も模倣の対象となります。

 現在のシュタイナー園の教育実践の基盤を作った先駆者であるフライヤ・ヤフケ先生は、子どもの前で家事の仕事をすることは、子どもを教育するということだと述べています。家事の仕事は人間が生きていくのに必要な営みで、それを子どもが真似していくことは、本来の人間のすべきことを身につけていくこと。人間になっていくということなのです。

 さまざまな手仕事も、家事の範疇やその延長であり、人間ならではの手を動かして行う、生きていくための営みです。子どもの傍で手仕事をすることは、子どもの健やかな成長に、人間になっていくプロセスに、大きく影響するのです。


プロフィール・吉良創 (きらはじめ)
1962年生まれ、自由学園卒。ヴァルドルフ幼稚園教員養成ゼミナール(ドイツ、ヴィッテン)修了。
滝山しおん保育園園長、南沢シュタイナー子ども園理事、日本シュタイナー幼児教育協会理事、ライアー響会代表。国内外でシュタイナー教育、ライアーに関する講座、講演、コンサート、執筆などを行っている。

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