シュタイナー教育の視点から

「お人形の素材と質」シュタイナー教育の視点から No. 2

お人形の素材と質

ウォルドルフ人形は、どのような素材で作られているでしょうか。木綿の布や糸、羊毛の綿、毛糸など、どれも天然の素材です。ウォルドルフ人形は、どのように作られるのでしょうか。切ったり、縫ったり、丸めたり、詰めたりと、その作業はすべて手仕事です。工場で量産されるのではありません。

子どもたちは人形が好きですし、どんな人形でも遊ぶでしょう。プラスティックなどで作られた人形やフィギュア、化繊の布で作られた縫いぐるみでも、よく遊び、よい遊びを展開していくこともあります。しかし、プラスティック、化繊などで作られている人形と、天然素材で作られている人形とでは、まったく違う感覚体験があるのです。

乳幼児の大きな課題は、自分の体を育んでいくことで、その中には感覚器官の育成が含まれます。何を食べたかによって味覚、何を聴いたかによって聴覚、何に触ったかによって触覚が決まります。よい感覚体験がよい感覚器官を育みます。健やかな感覚器官が育まれるために、子どもの周りにあるものが、子どもにどのような感覚印象を与えているかをよく観て取捨選択していくこと。それは子どもと関わる大人の課題です。

感覚体験は、間接的でなく直接の体験です。感覚を通してその素材の目に見えない「質」に出会います。シュタイナー乳幼児教育の「おもちゃ」は、天然素材から作られています。子どもたちは、遊ぶ中で、それぞれの素材の異なる「質」と出会います。天然素材の持つ「質」と出会うことによって、その子ども自身の精神的な「質」である「私」も育まれていくのです。

ウォルドルフ人形で遊ぶのと、「質」が均一なプラスティックなどで量産された人形と遊ぶのでは、子どもたちは、まったく異なる感覚体験を持ちます。また丁寧に手作りされた人形は、それぞれが唯一無二で同じものは一つもなく、その人形の「質」を持っています。その「質」には、作り手の人柄、感性、手仕事のスキル、その人形で遊ぶ子どもへの思いなどが含まれていて、子どもがその人形と遊ぶ時、人形を作った人の「質」も感じているのです。

そして、その人形と遊んでいく中で、その人形は子どもにとって特別な存在となっていきます。その人形と遊んでいるその子どもの「質」もそこに加わっていくのです。愛されていく中で、人形も育っていくのかもしれません。


プロフィール・吉良創 (きらはじめ)
1962年生まれ、自由学園卒。ヴァルドルフ幼稚園教員養成ゼミナール(ドイツ、ヴィッテン)修了。
滝山しおん保育園園長、南沢シュタイナー子ども園理事、日本シュタイナー幼児教育協会理事、ライアー響会代表。国内外でシュタイナー教育、ライアーに関する講座、講演、コンサート、執筆などを行っている。

関連記事

ページ上部へ戻る