シュタイナー教育の視点から

「健やかに育つための『おおい』」シュタイナー教育の視点からNo12

健やかに育つための『おおい』

子どもの今の姿には、三つの異なる質が混在しています。一つ目は遺伝による体質。その子どもの父方、母方のはるか昔からの血や遺伝の流れがあり、子どもの体の質として現れます。例えば、どのような眉毛、鼻、手や足といった体の部分や体型やプロポーション、そして動きには、遺伝によってもたらされたものが現れています。

二つ目は、持って生まれた精神的な質。家族は血のつながりがある特別な人たちの共同体ですが、精神的には他人で一人一人まったく独立した存在です。個人の精神性のことを「自我」と呼びますが、自分と同じ自我を持つ人はおらず、他の自我と入れ替わったり、混じり合ったりすることもありません。自我は自分と他人を分ける力でもあるのです。その子ならではの個性は、その子どもの精神性(自我)に由来しています。そして、生まれた時に皆が同じ白紙の状態なのではなく、個性を持って生まれてくるのが人間です。

この遺伝による体質や、生まれもった精神性を、私たちは変えることはできません。私たちにできるのは、子どもの体質や精神的個性を、受け入れること。小松菜の種からは小松菜しか育たず、どうにかしてほうれん草にすることはできません。それと同じように、その子どもの体質や精神的個性は受け入れて、それがよりよく育つように手助けしていくことが私たちの出来ることなのです。

三つ目は、生まれてからの生活の環境によって育まれた質。遺伝による体質や持って生まれた精神性は「先天的」ですが、環境によって育まれた質は「後天的」です。この環境の領域でこそ、私たち大人は、親として、保育者として積極的、意識的に子どもに関わることができるのです。

遺伝によっていただいた体に、持って生まれた精神性が結びついていくプロセスが子どもの成長発達。体を「家」と例えてみると、親によって建ててもらった家に、住人であるその子の自我が、住み込んでいく、自分にあった家にリフォームしていくプロセスです。そしてこの家は一生の間、引越しすることはできません。子どもが自分にあった住みやすい家を作れるかどうかは、生まれてからどう過ごすかという「環境」にかかっています。そして、この環境の中でこそ、先天的な二つの質である体と自我が結びつくのです。

乳幼児は、全身が感覚器官のような存在。周りのものごと、人の行動や言葉などを、フィルターなしに受け入れ吸収していき、その受けた感覚印象に従って自分の体を作っていきます。しかし乳幼児はその環境の中で受け取る様々な印象の中から、自分の成長発達にプラスになるものだけを意識的に選び取ることはできません。環境の中に、健やかな成長発達を促すものを増やし、マイナスになるものを減らすこと。環境を子どもの成長発達を促す、守られた温かい「おおい」にしていくこと。これが乳幼児期の子どもに関わる大人、家庭、保育園そして社会の課題です。その「おおい」の中でこそ、愛情を込めて作られるお人形たちが活躍するのです。


プロフィール・吉良創 (きらはじめ)
1962年生まれ、自由学園卒。ヴァルドルフ幼稚園教員養成ゼミナール(ドイツ、ヴィッテン)修了。
滝山しおん保育園園長、南沢シュタイナー子ども園理事、日本シュタイナー幼児教育協会理事、ライアー響会代表。国内外でシュタイナー教育、ライアーに関する講座、講演、コンサート、執筆などを行っている。

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