シュタイナー教育の視点から

「バランスという器」シュタイナー教育の視点から No11

バランスという器

自分の体を健やかに育んでいくこと。これは生まれてから最初の7年間の大きな課題で、この時期に様々な運動能力も身につけていきます。行為するための道具としての自分の体を思いのままにコントロールできることは、自由で自発的な活動の基盤です。乳幼児は先ず、頭ではなく、体が賢くなる必要があるのです。

体をコントロールするために大切なのはバランス。均衡感覚です。自分の体を動かすとき、私たちは無意識に均衡感覚を働かせています。それによって、バランスを崩して転ぶことなく走ったり、湯飲みにお茶をこぼさずにちょうどよく注いだりすることができます。そして面白いことに、バランスが取れているとき、そのことは意識されません。バランスが崩れたときに、ハッとして、バランスが崩れたことが意識にのぼります。

たくさんハイハイをすること、たくさん歩くこと、走ること、木登りや縄跳びをすること。積み木、コマ回し、あや取りなどで遊ぶことや、スプーンや箸を使うこと。そして織物、刺繍、料理、掃除などの手仕事や家事の仕事の中の動きも、体全体を使う大きなバランスや、手先の器用さにも結びついた繊細なバランスを身につけていくことにつながっていきます。

バランスが取れているとき、そこには天秤のように、中心があります。バランスが取れている状態は、目に見えない「器」となり、そこに中心となるものを受け取ることができるのです。体をバランスよく使うことができるとき、その人の精神的中心である自我が、その「器」の中でしっかりと働くことができます。しかし中心は、いつも同じ所に留まっていません。動きの中で常にバランスをとり、中心を見つけていく必要があります。動きの「器」です。

体だけではなく、心や精神的な面でも必要なバランス。私たちは生活の中で、二つの対極をなすものの中に常にバランスをとっていく必要があります。自分と家族、自分と社会、社会と家庭、古いものと新しいもの、個と集団、子どもと大人、人間と自然、挙げていくときりはありません。自分の立ち位置を固定してしまったり、何かに執着したりするのではなく、両極をしっかりと見ながらバランスをとっていくこと。それができると、大切なものが入ってくる動きの「器」が形成されます。それがうまく機能していると、その中に物ごとの本質や意味を受け取ることができ、そのことは人間を健康な状態に促してくれます。そして、クリスマスの時期、すべての人にとって、この「器」はマリアであり、そこに「光」が宿り、「光」が生まれるのではないでしょうか。


プロフィール・吉良創 (きらはじめ)
1962年生まれ、自由学園卒。ヴァルドルフ幼稚園教員養成ゼミナール(ドイツ、ヴィッテン)修了。
滝山しおん保育園園長、南沢シュタイナー子ども園理事、日本シュタイナー幼児教育協会理事、ライアー響会代表。国内外でシュタイナー教育、ライアーに関する講座、講演、コンサート、執筆などを行っている。

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