シュタイナー教育の視点から

「お人形は誰に似る?」シュタイナー教育の視点から No. 3

お人形は誰に似る?

もう30年前ですが、ドイツ留学中、シュタイナー幼稚園教員養成の授業の中でウォルドルフ人形を初めて作りました。手仕事のクナップ先生の指導のもとクラスの皆で人形作りに取り組みました。カーリン・ニューシュツさんの「ウォルドルフ人形の本(邦題)」は参考図書の一つでした。

完成した人形を並べて皆で見たとき、同じ材料や型紙で作ったのに、そのバラエティーに驚かされました。同じ人形は1体もありません。髪型や服の違いももちろんありますが、人形本体の違いが面白いと思いました。最初、人形だけを並べて見合ったのですが、その後、作った人が作った人形を抱いてみました。すると、作り手とその人の作った人形が似ているのです。

プロポーション、顔立ちなど、ちょっとした違いの中に、その人にとっての当たり前な人間の姿である自分自身の容姿や、その人の美意識などが、入り込んでいきます。私はクラスの中で唯一の男性でしかも東洋人。私の作った人形は髪の毛がこげ茶の男の子だったのですが、「Hajimeに似ている!日本人ぽい!」などと言われました。大柄でとても優しいクラスメイトがいたのですが、人形と彼女が本当にそっくりだったのを今でもよく憶えています。

さて、子どもの遊びには、その子どもの日常での体験したことが反映されます。どのように人形と遊ぶか、人形のお世話をするかには、その子どもの周りの日常の人間模様があらわれます。

幼稚園での自由遊びの時間、子どもたちの人形に対する言葉掛けは本当に面白いです。「お昼寝の時間ですよ」「さあ、お散歩に行きましょう!」「〇〇しちゃいけません!」「にんじんも残さないで食べなさい!」などなど。その子がお母さんに言われていることが、そのまま模倣されているのです。言葉の抑揚や雰囲気、お母さんそっくりです。家での親子の様子が手に取るようにわかってしまいます。

お母さんが作ったお母さんそっくりな人形で子どもが遊ぶ場合、お母さんそっくりの人形に、子どもが模倣したお母さんの息吹が吹き込まれるのです。とても面白いことだと思います。子どもが遊んでくれることによって、そのお人形は製作者に、さらに似ていくのかもしれません。そして大好きなお母さんと同じように、子どもはそのお人形を大好きになっていきます。そのようなお人形に出会えた子どもは、とても幸せです。


プロフィール・吉良創 (きらはじめ)
1962年生まれ、自由学園卒。ヴァルドルフ幼稚園教員養成ゼミナール(ドイツ、ヴィッテン)修了。
滝山しおん保育園園長、南沢シュタイナー子ども園理事、日本シュタイナー幼児教育協会理事、ライアー響会代表。国内外でシュタイナー教育、ライアーに関する講座、講演、コンサート、執筆などを行っている。

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