シュタイナー教育の視点から

「子育てのレシピ」シュタイナー教育の視点から No9

子育てのレシピ

料理が好きなので、地元の中華レストランのオーナーシェフによる料理教室に通ったことがあります。彼のお料理は中華ですが、化学調味料を一切使わず、素材の味を上手に活かした絶妙の味付けです。料理教室は参加者の前でシェフが解説をしながら料理していくスタイルで、最後にそのお料理を美味しくいただくのですが、彼の話や、包丁さばき、調理している姿から、たくさんのことが学べました。

麺料理がテーマの回に、「この麺は何分ゆでればいいのですか?」という質問がありました。

「ゆで時間は何分ですよ、とは言えないんです。タイマーで計ってちょうど何分茹でれば美味しく茹であがるということはありません。私の中華料理用の厨房で強い火力で茹でるのと、家庭用のレンジのでは当然違いますし、鍋の大きさや、一度に茹でる麺の量の違いによっても茹で時間は変わります。そして茹であがった麺の堅さの好みも人それぞれですし、その麺をすぐにお出しするのか、他の調理工程がまだあるのかも考慮します。実際に茹でている麺をよく見て、指で触ったり、食べたりして、ちょうどよく茹であがったかを見ないといけないんです。」

彼ならではの見事な回答でした!そして教育も料理も基本は同じなのだと感じました。

料理の基本を知っていること、その技術を身につけていくことは当然必要なのですが、実際にその素材をどう料理したらよいかを教えてくれるのは、素材自身。レシピを勉強することも大切ですが、レシピ通りに料理することは目的ではありません。麺がちょうどよく茹であがること、美味しくいただくことが目的なのです。

子育ての場合も、子どもの成長発達や子どもへの接し方を学ぶことは大切です。しかし、その子どもがどう育っていきたいのか、大人がその子どもにどう接したらいかを教えてくれるのは、その子ども自身。このように接したら必ずうまくいくという子育てレシピはありません。その子どもが無意識に持っている自ら育っていこうとする意志を、その子のペースで辿っていけるように、その手助けするのが私たち大人の役割です。そのためにまず大切なのは、その子どもをよく観察すること。そして子どもの生活する環境をよく観察していくこと。料理では素材の質を知ることが、素材を活かす料理の前提であるように、その子どもの体、心、精神の質をよく観察して、その質と出会うことを通してこそ、その子どもにどのように接していったらいいかが見えてくるのです。きっと人形作りも、同じようなことが大切なのだと思います。


プロフィール・吉良創 (きらはじめ)
1962年生まれ、自由学園卒。ヴァルドルフ幼稚園教員養成ゼミナール(ドイツ、ヴィッテン)修了。
滝山しおん保育園園長、南沢シュタイナー子ども園理事、日本シュタイナー幼児教育協会理事、ライアー響会代表。国内外でシュタイナー教育、ライアーに関する講座、講演、コンサート、執筆などを行っている。

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