シュタイナー教育の視点から

「身体全体を使うことの大切さ」シュタイナー教育の視点から No. 8

身体全体を使うことの大切さ

コロナ禍の生活の中で、以前に比べてコンピューターの前に座っている時間が増えたのではないでしょうか。大人はテレワーク、子どももリモート授業。大人も子どもも、コンピューター、タブレットなどのスクリーンの前で長時間を過ごしています。この状況の下でテレワークやリモート授業は必要です。しかしそれによって失われるものもあります。

テレワーク、リモート学習中は、そもそもコンピューターを使って仕事、学習、ゲーム、その他をしている時には、私たちは主に体の上の部分、頭部だけを使っています。目はスクリーンを見つめ、耳はスピーカーから出る音を聞きますが、その時に使っている頭は静止した状態です。動いているのはキーボードを打ち、マウスをクリックする指だけで、多くの場合、腕もほとんど動きません。体の下の部分はほとんど動きませんし、コンピューターを使うための重要な役割は担っていません。視覚と聴覚は使いますが、味覚、嗅覚は使いません。全身の筋肉や感覚器官を使うことは必要ないのです。

先日友人が、家族皆で手仕事をしている日曜日の写真を送ってくれました。お母さんと小学生と幼稚園の子ども達は、フェルトと羊毛を使って小人を作っていて、その傍らで、お父さんは、子どもの壊れていたクレヨン入れを縫って直しています。なんとも微笑ましい光景です。楽しい日曜日だったことでしょう。

私たちは、インターネットを通していろいろな情報を得たり、調べたりすることができ、音楽や映画も配信され、それを享受することができますが、そこには積極的に考えるという行為はなく、ただ受身的に情報を取り入れていきます。それに対し、手を使って仕事をする時は、例えば針と糸でどのように縫っていこうかを自ら考えていく必要があり、身体全体の筋肉と感覚を使っています。積極的に自分から、素材に向き合い、道具を使いこなしていきます。スクリーンの前での行為とは異なる質があるのです。


プロフィール・吉良創 (きらはじめ)
1962年生まれ、自由学園卒。ヴァルドルフ幼稚園教員養成ゼミナール(ドイツ、ヴィッテン)修了。
滝山しおん保育園園長、南沢シュタイナー子ども園理事、日本シュタイナー幼児教育協会理事、ライアー響会代表。国内外でシュタイナー教育、ライアーに関する講座、講演、コンサート、執筆などを行っている。

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