シュタイナー教育の視点から

「紡ぎ車と保育室」シュタイナー教育の視点から No15

紡ぎ車と保育室

私が南沢シュタイナー子ども園でクラス担任をしていた頃の話です。工芸をしていた大叔母さんの足踏み紡ぎ車を譲り受けたので、冬の室内での自由遊びの時間に糸紡ぎをしていました。冬は羊毛を使った手仕事をたくさんします。5歳児は簡単な織り機で織物。縦糸は大人が張り、子どもたちは横糸を織り込んでいきます。既成の毛糸も使いましたが、紡ぎ車で私が紡いだ毛糸も使いました。子どもがきれいな色の羊毛綿を自分で選び、それを私が紡ぎ、紡ぎたての毛糸での織物が始まります。

羊毛綿の横には、子どもも使える小さめのハンドカーダー。私がカーダーをかけてから紡いでいる様子を見て、子どもたちは興味津々。当然自分でもカーディングを始めます。幼児ならではの模倣です。違う色の羊毛を一緒にカーディングすると、水彩のにじみ絵のように色が混ざって他の色になることを発見して夢中になる子どももいて、色の混ざった羊毛を、これを紡いでと持ってきます。紡いで毛糸になると、また違った色合いが生まれます。その毛糸の織り込まれた織物は織り機から外され、ポシェットやお人形のお布団に。足踏みで回すのは難しいですが、男の子たちは紡ぎ車の車を手で回すことを始めます。自分が車を回すことによって、誰かの毛糸が紡がれていきます。これも楽しいお仕事で、ゆっくり同じ速さで回すために、子どものいろいろな感覚が同時に働いていきます。

紡ぎ車が回る音。なんとも言えないリズムと響きがあり、その素敵な響きが保育室に広がっていくと、その響きに包まれて子どもたちはよく遊んでいたのを今でも思い出します。保育室に手仕事職人の工房のような雰囲気があるとよいのです。織物も、カーディングも、糸つむぎも、全ての手仕事にはその作業の素材や道具などと結びついたリズムが生まれます。手際よい手仕事から生まれるリズムは本当に心地よいものです。人間ならではの手仕事を子どもが生活の中で体験できるはこと本当に素晴らしいことです。


プロフィール・吉良創 (きらはじめ)
1962年生まれ、自由学園卒。ヴァルドルフ幼稚園教員養成ゼミナール(ドイツ、ヴィッテン)修了。
滝山しおん保育園園長、南沢シュタイナー子ども園理事、日本シュタイナー幼児教育協会理事、ライアー響会代表。国内外でシュタイナー教育、ライアーに関する講座、講演、コンサート、執筆などを行っている。

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