シュタイナー教育の視点から

「子どもにとって見通しのきく生活」シュタイナー教育の視点から No10

子どもにとって見通しのきく生活

言葉だけで伝えようとしても、子どもに伝わらないことがよくあります。しかし子どもの眼の前で実際に行うと、何をしているかは一目瞭然で、子どもには簡単にわかります。言葉は抽象的で、行為は具体的なのです。乳幼児期の子どもには無意識に真似をするという素晴らしい能力があります。子どもの前で、大人がしていることを子どもは真似します。眼の前で行われていることは、具体的で見通しがきくのです。

私が園長をしている保育園では有機栽培の野菜が畑から土付きで届きます。先生たちが野菜を洗い下処理(お掃除)の仕事をしていると、子どもたちはやってきて一緒にその仕事を始めます。例えば、美味しいニラが畑からたくさん届いたとき、ニラのお掃除(根元の皮を取る作業)を年長、年中の女の子たちがお手伝いしていました。野菜のお掃除などの仕事は、大人のしているのを見るだけで、何をどうしたらよいかが見通すことができ、言葉による説明はいりません。そして子どもの小さい手は、ニラのお掃除には大人の手よりも向いていて、とても上手に手際よくこなします。

また、生活の中に形があると、これも子どもにとって見通しがききます。同じものが同じところに置いてあると、いちいち探す必要はありません。例えばお人形がいつも同じ場所にあると、いつもの場所に取りに行って、すぐに遊び始めることができます。同じおもちゃがいつも違う場所に置かれていると、まず子どもはおもちゃを探さなければなりません。

生活の中で同じことが同じ場所で行われること。これも子どもにとって生活を見通しがきくものにします。赤ちゃんの時から、オムツ替えはいつも同じ場所で行われると、赤ちゃんも今、お母さんがオムツを替えてくれるということを、赤ちゃんなりに分かるのです。そうするとオムツ替えの際に自分で足を上げるようなこともできるようになります。これは赤ちゃんの自発的な行動です。

さらに、同じことが同じ場所で、同じ時間の流れの中で行われると、生活はもっと見通しがきいてきます。外遊びに行く前には、トイレに行って、帽子をかぶって、庭に向かうということも、毎日繰り返されていくと、子どもには次に何をするのかを自然に理解できるのです。

どんなによい活動でも、親や保育士がその時の気まぐれや思いつきで、毎日違うことをしていくと、その活動の当事者である大人には次に何をどうするかがわかっていても、子どもには見通しはきかず、それに振り回されてしまいます。見通しのきく生活は、子どもを落ち着かせ、遊びやその時にすべき活動に向かわせ、自発的にその活動を行うことへと、促してくれるのです。このことは大人にも当てはまるかもしれません。


プロフィール・吉良創 (きらはじめ)
1962年生まれ、自由学園卒。ヴァルドルフ幼稚園教員養成ゼミナール(ドイツ、ヴィッテン)修了。
滝山しおん保育園園長、南沢シュタイナー子ども園理事、日本シュタイナー幼児教育協会理事、ライアー響会代表。国内外でシュタイナー教育、ライアーに関する講座、講演、コンサート、執筆などを行っている。

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